春は花見で賑わう人を
かき分け走る女が一人
白に滴る赤黒裾に
先刻男を殺したところ
女の力じゃ一刺しにゃいけず
刺しても刺しても行き絶えられず
悲剣、メッタ刺し
死んだ男は外道の高利
父母心中、娘は売られ
ついぞ長屋は人絶えだえの誰が怨みを晴らしたか?
刺せば刺すほど血で手は滑る
滑りながらも落ちるは涙
悲剣メッタ刺し
目明かしや 地蔵端
散る花に 目がくらみ
半里とて 歩けずに
して女は?
男殺した女は未だに
行方知れずや夜露に消えて誰が言ったか、あの家に昔
ついぞ産まれぬ水子が一人
妹悲しや父母恋し
仇を伐つため降りたという
悲剣メッタ刺し