ミュージシャン： ボーカル＆アコースィック・ギター：友川かずき パーカッション：石塚俊明 ピアノ／アコーディオン／マンドリン：永畑雅人 バイオリン：松井亜由美 ベース＆E-ボウ・ベース：斎藤千尋 アコースィック・ギター：金井太郎 プロデューサー：生悦住英夫 エンジニア：井原征則 ジャケット絵：友川かずき 録音場所：スタジオ「J」 ライブ盤『御縁』を除けば、『無残の美』（1986年）以来久々の本格的なバンド編成での録音。松井亜由美のバイオリンは友川かずきの清々しい叙情を際立たせる。80年代後半、彼女はバンド編成でのライブでは欠かせない重要な存在となっていたのだが、現在（1998年）のところ、意外にもこのCDが彼女との共演が収められた唯一のものである。 友川かずき本人が語るとおり、彼は凄腕のメンバーに恵まれている。プロデューサー・生悦住英夫氏（PSFレコード）から聞いた話では、例えばこのCDはわずか３テイク目でOKが出されている。演奏者たちは録音当日になって初めて友川かずきから曲を習う。つまり、スタジオ録音とはいっても、インプロビゼーションというのが実際なのである。だが、完成された作品は、綿密な楽譜があらかじめ用意されていたかのようだ。 「ドガと鳥鍋」というタイトルは作家・石川淳のエッセーから拝借されたもの。友川かずき本人が「聴いてくれた人が知らない」と言って嘆いていたことを思い出したのでこの曲について補足しておこう。この曲の中に「はてさて三鬼が寄って立つ」というフレーズがあるのだが、この「三鬼」というのは俳人の西東三鬼（1900年～1962年）のこと。軍国主義下のいわゆる「京大俳句事件」で検挙されたこともある反骨の人であり、斬新な発想が寺山修司らにも影響を与えた。歌詞の中に引用されている「水枕ガバリと寒い海がある」「美少女の額に走路のかげりあり」は彼の句の中で恐らく最も有名なものである。代表的な句集は『旗』『夜の桃』など。 「夢のラップもういっちょう」は再録で、歌詞が増えている点に注意。「夢ふたたび教えてくれたのは／ディランでもスプリングスティーンでもなく／朝もやをついて走る滝沢正光」という、音楽一辺倒のファンにはショッキングに取れなくもないこのフレーズは、本CDで加えられたものである。本人の日頃の関心のありかを反映してか、この作品が最も生き生きして聴こえる。ライブで本人のMCを聞いたファンはご存じだと思うが、「滝沢正光」は競輪の名選手。友川かずきは、この曲を歌い始めたころ、「ラップ」を音楽のラップと誤解されて困惑することがたびたびあったと語っている。ここでの「ラップ」は「ラップタイム」の「ラップ」のことなので念のため。